まさりんの資材置き場

訳あって、こちらに載せたいものを載せます。・

夏の宿題消化シリーズ3 「納涼フェスティバル」用文章「惨殺」

 気分が悪いまさりんです。

 昨日一日で、今回の小説を仕上げて、こういう文章は嫌いなので、書いていて、異様に肩が凝りました。これから近所の神社にお参りしようと思います。

 さて、メインブログは、Google Adsense を利用しています。結構規約が厳しくて有名らしいです。今回の内容、どう考えても、引っかかってしまいそうなので分けました。いつかはこういう作業をしなければいけないと思っていたのですが。アクセス数が泡沫の場合、大丈夫なのかな、自意識過剰かもしれないな、とも思うのですが、一応ね。

 まずい内容の場合、こちらのブログを利用しましょう。ではどうぞ。

novelcluster.hatenablog.jp

 

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「惨殺」

 お盆が終り行く実も過ぎていないある夜。

 夕方に降った雨のせいで外は夏とは思えない涼風が吹いていた。だのに暑さに加えて、「それ」の重さと強い獣臭のせいでシンジは夜半、半分目が覚めた。

 『うっとうしい』

 「それ」がなんであるかを半分しか冷めていない頭で推定しようと試みる。おそらく昨晩食べ過ぎた枝豆だろうと当てる。

 腹のなかの重みを腸の方へ長そうと右を下に寝返りを打とうとした。途端にクビのあたりの「それ」に威嚇された。一気に残り半分が覚醒した。首を挙げて見るまでもなく、鎖骨のあたりに「それ」が鎮座していた。

 「それ」は猫であった。

 真黒い四〇㎝ほどの猫が、横向きに香箱座りをして、首だけこちらへ向けて歯を剝いていた。部屋のなかの暗さから午前二時か三時くらいだろうと判断した。

 醒めた頭になると、重さは食い過ぎた枝豆所の話ではないとわかった。寝るときに全身を覆うようにタオルケットを被った。それがそのままなのは直接猫たちが身体に触れていないことでわかる。それにしても暑い、と左足を動かしタオルケットを外そうとする。動きに呼応して、「シャー」という声が左足のあたりから起こった。一匹ではない、二、三匹の声だ。

 『一体何匹いるんだ』

 確認する手段をシンジは考える。暑さと恐怖で脂汗と普通の汗が混じって、汗がしとどに流れてくる。ベッド脇に姿見があるのを思い出した。ただ身体をどの程度動かしていいものか分からない。

 『いやたかだか猫に威嚇されてたまるか。蹴散らしてやれ』とも思ったが、敵情を知らずに動くは愚、と考え直した。

 そのままゆっくりと首だけを動かそうと決めた。目前の黒猫に注意を払いながら、ゆるゆると首を動かしてゆく。

 肩を動かさずに首だけを真横にするのは難しい。視界が姿見を捉えたとき、「シャー」と声を発した目の前の黒猫が耳を引っ掻いた。

 おかげで一瞬しか鏡を見られなかった。

 一瞬しか見られなかったが姿見には、ベッド一面にびっしりと数十の猫が乗っているのが見えた。

 『嘘だろ』

 全身に震えが来た。目の前の黒猫が黒白の虎猫と入れ替わっていた。一斉に数十匹の猫が喉を鳴らし始めた。おそらくはリラックスしているときに出るだろうその音に人も癒される。が、このときばかりは怖気しか感じなかった。その重さの正体をまざまざと見てしまうと、無数の猫のうち、身体に乗る者は、なんとなくその気配が分かるようになった。あるものは右向き、ある者は左向き、前を向けば後ろを向くといった具合にめいめいが好き勝手に座り、寝ているようだった。それぞれがバラバラでありながら、すべての猫の意識がこちらにあることはよく分かった。一斉に喉を鳴らされるとそれ自体が妙に威嚇となり、また妙なケモノ共の余裕ともなり、不気味になるのであった。

 きゃつらが共鳴するように喉を鳴らしてから気づいたのだが、猫の気配はベッドの上に留まらなかった。今度はあまり首を動かさないように盗み見た。するとベッドの下に無数の獣がいるのがはっきりではなくなんとなく見えた。道理で部屋が暑いはずだ、とシンジは思った。

 それにしても目の前のトラ猫、どこかで見たことがある。横顔を見ていると、おもむろにシンジに顔を向けて、歯を剝いた。顔に明らかな敵視と憎しみが滲んでいた。

 『あ、アイツだ』

 あの猫に似ている、と気づいた。そして、部屋一杯に集まった猫どもの目的を少し理解した。

 

 街中にある高校への通学路の途中、ある家で飼われている猫がいた。冬の早朝でも、夏の日中でもいつでもいた。が、首輪をしていたので飼い猫であるのはまちがいない。

 冬の早朝には飼い主の家の白い壁に取り付けてある温水器の銀色の上に乗って、真夏は車一台通るのがやっとの通りを挟んだお向かいさんの軒先にいた。おきまりの場所にいて、シンジを見ると、ニャーと泣いた。

 その鳴き声がどうにもシンジの耳には切なく響いた。助けを求めているような気がした。猫は片眼が潰れていた。理由は分からない。病気かもしれないし、怪我かもしれない。潰れた右目は、左目のきれいな灰色と比べて、白濁していた。潰れた右目はいつも濡れていて、目やにがびっしりこびりついていた。とても苦しそうだった。

 「殺してくれ、楽にしてくれ」とシンジに呼びかけているような気がした。二ヶ月か三ヶ月か、毎朝猫はシンジに訴えかけた。そのうちにシンジは猫の言うことを叶えよう、という気になってきた。

 シンジ自身は気づいていないが、心境の変化には少なからず、彼自身の鬱屈も関係していた。高校は地元で一番の進学校に進んだ。彼は高校での緩慢な日常の中で全身を焼くような刺激を欲した。よほど受験勉強が性に合っていたのだ。彼は中学入学当時はさほど順位はよくなかった。そこから三年かけて徐々に成績を上げていった。現在通っている高校に合格したときには、周囲の目が一気に変わった。友人も両親も親戚も、褒めそやした。クラスで目立たない陰気なヤツという評価が一気に「すごいやつ」に変わった。高校に入ってからは当たり前の日常が戻った。刺激がなかった。つまらなかった。

 夏休みの少し前計画を決行した。夏の早い時間、始発もない時間に上下ジャージを着て、例の場所を訪れ、猫を抱き上げた。猫は数日かけて餌をやり、手懐けておいた。顔を近づけて、鼻のあたりの匂いをかごうとした。思わず顔を背けてしまった。なんとなく目の異常を忌避した。猫は鼻と鼻を合わせてあいさつをする。それをシンジは知らなかった。

 近くにある児童公園まで、猫を抱えて歩いた。途中出勤する会社員や新聞配達員に遭遇することを恐れたが、出会わずに済んだ。公園のなかをしばらくうかがった。たまに、公園のなかをしばらくうかがった。たまに、ホームレスがたまっていることがあった。誰もいないことを確かめて、公園内に入った。おそらく四〇坪ほどのスペースだが、三方を建物に塞がれていた。両脇が民家、入口がマンションの背だった。つまり三方が建物の死角だった。右手の奥には清掃用具入れがある。その後ろにスペースがあった。

 シンジはそこに着くと猫をスペースに背中が見えるようにおいた。シンジ自身が入る余裕はない。猫は座って腹の毛づくろいをしている。

 シンジは素早く、厚手のビニール手袋をはめた。手袋は肘のあたりまであり、よごれる心配はなかった。

 そしてゆっくりと後ろから猫の首に両手をかけた。一気に力を入れる。猫が「グー」と奇妙な声をあげた。猫の首は細く短かったので、両手の人差し指と親指で、雑巾を絞るように捻った。猫はジタバタして、後ろ足で手を引っ掻いて外そうとした。ビニールの表面をかすめるだけで効果はなかった。右目から何かが飛び出した。苦悶の表情を浮かべ、必死に抵抗を試みていた。上からシンジが見ると、右目が飛び出してぶら下がっていた。シンジは心のなかで思った。

 『おかしいじゃないか。お前は死にたがっていたはずだ』

 ちょっとシンジは興奮してきた。この小さな生命の生殺与奪は彼が握っている。医師と真逆の行為。その興奮は受験勉強以上だった。

 さらに力をこめる。

 比例して猫の力が抜けていく。

 楽にしてあげようと、全力で絞める。

 猫は振り向いた。右目は白い神経の束のようなものにぶら下がり、左目は大きく見開いて、シンジを見た。口からは大量のヨダレが出て、毛を濡らしていた。

 そのまま、にっ、と笑った。

 シンジはギョッとした。が、すぐに気づいた。あまりに力を入れて捻ったので、首が折れて回ってしまったのだ。

 そういえば、さっき何かが砕ける感触があったが、そういうことか。

 シンジは久しぶりに心から笑った。

 

 手袋は数キロ離れた川のほとりで焼いた。猫がいたのは駅前、シンジの実家があるこの辺りは、田園風景の広がる田舎だ。手袋を燃やした川のほとりも民家があまりない。煙などが不審がられる心配もない。燃えカスは川の水で流しておいた。現に計画の実行から数ヶ月経過したがシンジに疑いはかかっていないようだ。

が、今は猫に囲まれている。グルグル喉を鳴らしている。まるでカエルの合唱だ。

 精神的な苦痛と肉体的な暑さで、身体じゅうが汗みずくになっていた。あの日をシンジは思い出していた。帰ると、全身が汗みずくだった。もう起床していた母には、「ジョギングしてきた」とごまかした。ジャージを脱ぐと、「なんだか生臭いね」と母親に言われた。シンジの胸は大きく鳴り、手足の関節が油切れのように上手く動かなくなった。「あんた変なことしてきたでしょ」と言われ、シンジは自分がからかわれたと悟った。

 窓から入る月明かりが黒いもので遮られた。猫どもが一斉に鳴き声を上げる。発情期の猫がパートナーを呼ぶような甘い声だ。ここにいる数十匹野猫が皆で求めている一匹がやってきたのだ。それにしても、この屋の家族はなぜ気づかないのか。

 シンジは目の前の猫を見ていた。殺した猫にそっくりなのだ。ただし、目は潰れていない。いったい何者なのか、と訝しがっていると、枕の左脇に何者かが来た。おそらく例の主だろう。脇に座ってシンジを睥睨している。明るい茶色のトラ猫だった。「あれコイツ近所のマルスじゃねえの」と思った刹那茶猫が「ニャア」と粘っこく長く鳴いた。黒猫がシンジの頭側に周り、爪をうまくひっかけて右目の瞼を固定した。そして件の白黒の猫がやって来た。しばし、シンジを見る。シンジが手を動かそうとすると、何匹もの猫が上半身に乗っかり動けない。ヤバいと思った瞬間、件の白黒のそっくり猫の爪がゆくりとシンジの目に突き立てられた。すぐに右目が見えなくなった。

再び「ニャア」と先ほどと同じような粘りで低く強く茶猫が鳴いた。

 すると身体中の猫が一斉に攻撃してきた。件の黒白の猫は首筋に食らいついてきた。猫の歯は首筋の血管を食い破った。強い勢いで鮮血が迸った。この時点で失血死に至ることは確実であった。シンジの意識は徐々に喪失していった。身体中の猫がシンジの身体を囓り、引っ掻いた。タオルケットをはぎ、Tシャツとパンツを引き裂いた。まるで爪とぎのように、肉を切り裂き、千切った。アキレス腱にかぶりつき、口の周りを血に染めながら、腱をくいちぎろうとする者もいた。両目はほじくり出され、転がして遊ばれている。耳や舌など柔らかい部位は明らかに野良どもが食べようと食いついている。腹を爪研ぎのように掻いている五、六匹の猫も野良だ。明らかに内臓を狙っていた。

 ところがシンジが「物」になったのを見届けた集団の主である茶猫は、低く短く「ニャア」と鳴いた。月の綺麗な夜、窓から月に向かって、猫は次々に飛び出していった。

 翌日、凄惨な遺体となってシンジは発見された。どう考えても野の獣から襲われたようにしか見えず、容疑者不詳として処理された。両親は泣き叫び、周辺の人間はその輝かしい将来が潰えたことを惜しんだ。

 だがよかったのかもしれない。猫を殺してから数ヶ月、再度猫を殺したいという衝動に耐えかねていた。やがて再び猫を殺し始め、その刺激に慣れてしまい、果てには子どもなど弱者を嬲り殺していただろう。落ちる前に死ねて実に幸せな男だ。

 真実は猫たちと猫と意思を通じる者しか知らない。

――了 (4523文字)←Word調べ

 

 ああ、胸くそ悪い。シンジが猫をやっちまう設定を考えたとき、報復は躊躇なくできました。猫が好きなんでね。